トラック運送業界では、適正原価の導入だけでなく、多重下請構造の是正も進められています。
2026年4月からは、真荷主から受けた貨物を他の事業者へ委託する場合、委託段階を原則2次までに抑える努力義務も始まりました。
背景にあるのは、仕事が何社もの間を渡るうちにマージンが差し引かれ、実際にトラックを走らせる運送会社へ十分な運賃が届かないという問題です。
本当に実運送会社の経営は良くなるのでしょうか。
今回は、物流業界で「水屋」と呼ばれる存在も含めて考えてみます。
運送業界では「外注」が当たり前にある
運送会社が受注した仕事を、必ずすべて自社車両で運んでいるわけではありません。
- 繁忙期で自社の車両が足りない
- 自社では持っていない車種が必要
- 遠方なので現地の運送会社へ依頼した方が効率的
- 急な増便に自社だけでは対応できない
こうした理由から、協力会社へ輸送を依頼することは珍しくありません。
問題になるのは、そこからさらに別会社へ委託され、さらにその先へ仕事が流れていくケースです。
なぜ多重下請が問題なのか
例えば、荷主がある輸送について10万円を支払ったとします。
実際の取引はこれほど単純ではありませんが、委託段階が増え、その都度マージンが差し引かれれば、実際に運ぶ会社へ届く金額は小さくなっていきます。
これが、多重下請構造が問題視される大きな理由です。
そこで出てくる「水屋」という存在
この問題を考えるとき、避けて通れないのが、いわゆる「水屋」です。
水屋とは法律上の正式な業種名ではありませんが、一般的には、自社でトラックをあまり持たず、荷主や元請から輸送案件を受け、その仕事を運べる運送会社へつなぐ事業者を指して使われます。
物流業界では、
「右から左へ仕事を流している」
「運賃を抜いて下請へ回している」
といったイメージを持たれることもあります。
多重下請によって実運送会社の運賃が圧迫されているのであれば、こうした批判が出る理由も理解できます。
ただし、「水屋=悪」と単純に整理すると、本質を見誤る可能性があります。
水屋は「運送会社の営業部」のような役割も持っている
例えば、東京から大阪まで荷物を運んだトラックがあるとします。
大阪で荷物を降ろした後、東京へ戻る必要があります。
しかし帰り荷がなければ、空車で戻ることになります。
当然、荷物を積んでいなくても燃料代、高速道路代、人件費は発生します。
荷主・元請
マッチング
運送会社
そこに、
と案件を持ってくる事業者がいれば、運送会社にとってメリットがあります。
荷主側も、自ら何十社もの運送会社へ連絡して空車を探す必要がありません。
つまり水屋には、
空いているトラックを持つ会社を結ぶ
という役割があります。
特に中小・零細の運送会社では、社長自身が配車、ドライバー管理、車両管理、経理などを担っている場合もあります。
そうした会社にとって、案件を探してくれる水屋や取扱事業者は、ある意味で「外部の営業部」として機能してきたともいえます。
問題は「水屋がいること」ではない
ここが今回の記事で最も重要なポイントです。
誰が何をして、いくら受け取り、
誰が実際に運んでいるのか分からないこと。
例えば取扱事業者が、
- 荷物を探す
- 車両を探す
- 輸送条件を調整する
- 急な案件へ対応する
- 請求や支払いを管理する
- トラブル対応を行う
といった仕事を担い、その対価として適切な手数料を受け取るのであれば、そこには経済的な役割があります。
一方で、ほとんど付加価値を加えないまま仕事だけが何社にも流れ、そのたびにマージンが差し引かれるのであれば、話は別です。
- 荷物と車両を探す
- 帰り荷を確保する
- 条件を調整する
- 突発輸送へ対応する
- 荷主と運送会社をつなぐ
- 付加価値なく再委託
- 何段階にも仕事が流れる
- その都度マージンが発生
- 実運送会社が分からない
- 最終運賃が低下する
「中間マージン=すべて無駄」ではない
例えば荷主が100万円を支払い、取扱事業者が10万円を受け取り、実運送会社へ90万円が支払われていたとします。
取扱事業者をなくせば、
とも考えられます。
しかし、その10万円の中で営業、配車、マッチング、事務処理、トラブル対応などを担っていたのであれば、それを今度は運送会社自身が行う必要があります。
人件費
工数
利用料
経営者の時間
つまり、
その手数料に見合う価値が、本当に提供されているかどうかが重要です。
必要なのは「水屋の排除」より「取引の透明化」
今後重要なのは、水屋をすべてなくすという考え方よりも、
意味の薄い多重下請を分けること
ではないでしょうか。
荷物と車両をマッチングする。
空車回送を減らす。
中小運送会社へ仕事を紹介する。
急な輸送需要に対応する。
こうした機能は、物流業界にとって今後も必要でしょう。
一方で、何社もの間を仕事が流れ、実運送会社へ十分な運賃が届かない構造は是正される必要があります。
実運送会社にも「営業力」が必要になる
多重下請構造が今後縮小すれば、実運送会社側にも変化が求められます。
これまでは、
ことで成り立っていた会社もあるでしょう。
しかし今後は、
- 自社はどのエリアを走れるのか
- どの車種を持っているのか
- どんな荷物が得意なのか
- いつ空車になるのか
- どの区間の帰り荷が欲しいのか
- いくらなら採算が合うのか
といった自社の輸送能力を、外に向けて発信することが重要になってきます。
仕事を紹介してもらい
トラックで運ぶ
自社の輸送能力を
自ら売る
第二弾の記事では、
「仕事をいただく会社」から「輸送サービスを提供する会社」へ変わる必要があるのではないか、
という話をしました。
多重下請の問題まで考えると、さらに一歩進んで、
「自社の輸送能力を売れる会社」へ
変わる必要があるともいえそうです。
ただし、小さな運送会社に全部求めるのは難しい
一方で、全国の中小・零細運送会社すべてに、
「これからは自分で荷主を探してください」
「帰り荷も自分で見つけてください」
と求めるのも現実的ではありません。
ドライバー数人、トラック数台で、社長自身が配車も営業も経理も行っている会社もあります。
だからこそ、荷物と車両をつなぐマッチング機能そのものは今後も必要です。
ただ、その仕組みは今後、
- 誰が荷主なのか
- 誰が元請なのか
- 誰が実際に運ぶのか
- どこまで再委託されているのか
- 誰がどのような役割を担っているのか
といった情報が、より見える形へ変わっていくことが求められるでしょう。
デジタルの物流マッチングサービスなどが、その役割の一部を担っていく可能性もあります。
まとめ|運送会社の仕事そのものが変わる
多重下請を抑え、実際に運ぶ会社へより適正な運賃を届ける。
その方向性は非常に重要です。
しかし、
というほど単純ではありません。
これまで水屋や取扱事業者の中には、実運送会社に代わって営業を行い、荷物を探し、帰り荷を確保し、荷主と運送会社をつないできた事業者もあります。
その機能が失われれば、今度は実運送会社自身が担わなければなりません。
つまり今回の制度改革は、
「運送会社は何をする会社なのか」
という部分まで変える可能性があります。
仕事を紹介してもらい
運ぶ会社
輸送能力を自ら売り
条件を交渉する会社
多重下請の是正によって実運送会社へより多くのお金を届けることは大切です。
しかし同時に、
そこまで考える必要があります。
消えるべきなのは仲介そのものではなく、価値の見えない多重構造と不透明な取引。
これからの物流業界では、そこが問われていくのではないでしょうか。
