標準的な運賃から「適正原価」へ|何が変わる?運送会社が今から準備すべきこと

2026年9月30日時点の公表資料に基づく記事です。

「標準的な運賃が廃止され、適正原価に変わるらしい」「国が決めた原価を下回る運賃で仕事を受けると、罰則があるのでは?」

運送業界では、こうした制度変更への関心が高まっています。今回の改正は、運賃交渉に使う参考水準を示す仕組みから、適正原価を継続して下回る取引を規制する仕組みへの転換です。

ただし、国が基準を設ければ、すべての運送会社の利益が守られるわけではありません。基準の使われ方によっては、荷主や元請から値下げ交渉を受ける可能性もあります。

この記事では、制度変更のポイントと交渉上の注意点、自社の車両別原価を把握する方法を解説します。

1.標準的な運賃から「適正原価」へ、何が変わる?

「標準的な運賃」は、法令を守りながら持続的に運送事業を営むための、運賃交渉の参考水準です。国交省の算定資料では、能率的な経営の下での適正な原価に、適正な利潤を加える考え方が示されています。[1]

一方、新しく導入される「適正原価」は、適正な事業運営に通常必要と認められる費用を反映し、国土交通大臣が定める基準です。

燃料費や人件費、減価償却費、税金だけでなく、輸送の安全確保に必要な経費や、事業継続に不可欠な投資の原資なども積算の対象として示されています。[2]

比較項目 標準的な運賃 適正原価
主な位置づけ 運賃交渉の参考水準 継続的な原価割れ取引を規制する基準
基準を下回る取引 下回ることだけで、この制度に基づく違反となるものではない 継続して下回らないようにする義務が設けられる
今後の扱い 適正原価の導入に伴い告示制度を廃止 新制度として導入

したがって、制度上「標準的な運賃が上位モデル、適正原価が下位モデルとして併存する」という整理ではありません。

また、適正原価の金額が従来の標準的な運賃より必ず低くなるとも、標準的な運賃から利益分だけを差し引けば求められるともいえません。費用の範囲や算定条件を確認せずに、二つの金額の上下関係を決めつけないことが大切です。

2.適正原価はいつから?決定事項と検討事項を整理

適正原価制度は、2025年6月11日に公布された改正貨物自動車運送事業法に盛り込まれています。施行日は、公布から3年以内の範囲で政令により定めることとされています。[3]

2026年4月1日に施行された白トラ利用への規制などとは、施行時期が異なります。「トラック適正化二法が施行された」と聞いて、適正原価の規制もすでに始まっていると考えないようにしましょう。

2026年9月30日時点で確認した公表資料では、適正原価の具体的な告示額や最終的な判定方法は示されておらず、制度設計の検討が進められています。国交省は2026年7月に有識者検討会を立ち上げ、第3回検討会を10月1日に開催する予定と発表しています。[4]

現段階では、制度導入の方針と、これから決まる具体的な金額・運用を分けて理解する必要があります。

3.適正原価を下回る受注・委託はどう扱われる?

規制に関係するのは、実際にトラックを走らせる実運送会社だけではありません。他社に運送を委託する元請運送会社や、貨物利用運送事業者も対象となります。

例えば、荷主から受けた仕事を元請が実運送会社に委託する場合、受注側だけでなく、委託側にも適正原価を下回らないようにする義務が関係します。適正原価を支払わない荷主についても、違反原因行為として是正指導を行う方針が示されています。[5]

ただし、「1件の運賃が基準を1円下回ったら、その場で罰金」という理解は正確ではありません。公的な説明では、適正原価を「継続して下回らない」ことが重要な要素になっています。

さらに、同時に導入される5年ごとの事業許可更新制度にも法令遵守が関係するため、単なる努力目標と捉えるのも適切ではありません。具体的な判定や行政対応は、今後示される制度の詳細を確認する必要があります。[2]

4.運送会社を守る基準が、値下げ交渉の材料になる可能性も

適正原価制度は、過度な安値取引を抑えるための仕組みです。しかし、制度の目的とは別に、交渉の場での使われ方にも注意が必要です。

ここからは、将来の価格交渉で起こり得るリスクについての考察です。

仮に、新しい適正原価が既存の契約運賃より低い金額で示された場合、荷主や元請から「国の基準はこの金額なのだから、今の運賃を下げられるのではないか」と交渉される可能性があります。

標準的な運賃の告示制度が廃止されても、過去の運賃表や、それを参考に決めた契約価格まで消えるわけではありません。そのため、従来の価格と新しい適正原価が、交渉材料として比較されることは考えられます。

問題は、規制上の基準が「この金額で受注すべき」という価格に置き換えられてしまうことです。基準を下回らないことと、個別の運送会社が利益を確保できることは、別に確認しなければなりません。

例えば、ある運行の自社原価が13万円、契約運賃が15万円だったとします。仮に国の基準が12万円で示され、それを理由に12万円への値下げを求められれば、自社では1万円の赤字です。

この数字は仕組みを説明するための仮定であり、将来の告示額を予測したものではありません。また、価格を比較するときは、対象となる車両、距離、時間、附帯作業や実費の扱いをそろえる必要があります。

運送会社に必要なのは、「国の基準より高いから下げられる」という議論に対し、自社の運行条件と費用を説明できる材料です。

5.国の適正原価と、自社が必要とする運賃は同じではない

同じ10トントラックで同じ距離を走っても、会社や車両によって費用は変わります。燃費、車両の調達費用、整備状況、運転者の人件費、帰り荷の有無、荷待ち時間などが異なるためです。

特に、荷物を運んでいる距離だけを見ると、原価を過小評価しやすくなります。納品後に空車で戻る距離にも燃料費や車両の消耗が発生します。荷待ちや荷役の時間にも、人件費や車両を確保している費用がかかります。

「国の適正原価」「自社の原価」「自社が必要とする売上」の三つを区別して考えましょう。

自社原価が13万円なら、13万円の売上で原価を回収しても、計算に含めた費用に対する利益はゼロです。売上に対して10%の利益を目指すなら、必要売上は次の式で求めます。

必要売上=自社原価÷(1−目標売上利益率)

13万円÷0.9=約14万4,444円です。原価に単純に10%を足した14万3,000円では、売上利益率は10%になりません。利益率の定義も、社内で統一しておく必要があります。

6.値下げ交渉に備えて、車両別の原価を把握する

最初から複雑な管理を目指す必要はありません。まずは、トラック1台ごとに、1か月分の費用と売上をまとめます。

区分 主に集計する費用・情報
車両費 管理用の減価償却費、またはリース料
人件費 給与、残業代、賞与の月割、会社負担社会保険料などの当該車両分
運行費 燃料、油脂・尿素水、修理整備、タイヤ
税金・保険 対象期間に応じて月割した車両分の費用
管理費 事務所・車庫・管理者人件費などを一定の基準で車両に配分
直接実費 高速道路・フェリー料金など
稼働・売上 空車を含む総走行距離、荷待ち・荷役等を含む稼働時間、運賃・料金の売上

国交省の原価計算の手引きでも、車両に直接ひもづく費用を割り付け、ひもづかない管理費を一定の基準で配分する手順が示されています。[6]

注意したいのは二重計上です。リース料と減価償却費を両方加えたり、リース料に含まれる整備費を重ねて計上したりしないようにします。複数車両に乗務する運転者の人件費は、乗務時間の割合などで配分します。

また、月次の採算確認と、今後の見積もりに使う原価は区別しましょう。タイヤ交換や大きな修理があった月の費用だけを、そのまま毎月の標準原価にすると判断がぶれます。見積もりでは、交換までの走行距離や、過去数年の修理費と走行距離などを使って平準化する方法があります。[6]

7.生成AIで、トラックごとの原価計算アプリを作ってみよう

集計項目と計算条件が決まれば、生成AIを使って簡単な原価計算アプリを作ることもできます。通常のチャット型AIではコードの生成と実行手順の案内、アプリ作成機能のある環境では画面の作成まで依頼できます。

最初は、車両別・月別の入力、原価と採算差額の表示、CSV出力に絞ると使いやすくなります。生成AIへの指示文は、例えば次のようにします。

生成AIへの指示文(コピーして使用できます)

トラック運送会社向けに、車両別・月別の原価を計算する日本語アプリを作ってください。ブラウザで使い、入力データを外部に送信しない仕様にしてください。

入力項目は、車両名、対象月、売上、空車回送を含む総走行距離、荷待ち・荷役等を含む稼働時間、車両費、税金、保険料、運転者人件費、配分管理費、その他固定費、燃料費、油脂・尿素水費、修理整備費、タイヤ費、その他変動費、通行料等の実費です。金額は消費税抜きで入力します。

車両費からその他固定費までを固定費、燃料費からその他変動費までを変動費として集計し、月次原価=固定費+変動費+実費、採算差額=売上−月次原価を表示してください。

固定費÷稼働時間、変動費÷総走行距離も表示してください。運行1回の試算は、それぞれの原単位に回送を含む時間・距離を掛け、当該運行の実費を加えて計算してください。

リース料と償却費、リースに含まれる整備費等の二重計上に注意を表示してください。距離・時間がゼロの場合は原単位を計算せず、負の費用は入力できないようにしてください。

複数車両の集計、CSV出力、保存ファイルの再読込、記入例を付けてください。国の適正原価の算定や法令適合判定をする機能にはしないでください。

生成されたアプリは、手計算と結果を照合してから使います。例えば、固定費60万円、変動費30万円、実費10万円、売上120万円なら、原価は100万円、採算差額は20万円です。

さらに、CSV出力、保存データの再読込、入力ミスへの対応も確認します。生成AIが作った画面がきれいでも、計算式まで正しいとは限りません。試作段階では架空の数字を使い、条件と計算を確認してから自社データを入力しましょう。

国の基準に加え、自社の数字で運賃を説明する

適正原価の導入は、運送業界の取引を見直す重要な制度変更です。しかし、国の基準だけで個々の運行の採算まで判断することはできません。

値下げを求められたときに必要なのは、車両ごとの費用と、回送・荷待ち・荷役を含む運行条件を説明できることです。原価を把握すれば、運賃の見直しだけでなく、待機時間の短縮や帰り荷の確保など、条件改善の交渉にもつなげられます。

制度の詳細が決まるのを待つ間にも、自社の数字は整理できます。まずは1台・1か月分から、原価と採算の確認を始めてみてはいかがでしょうか。

参考資料

  1. 国土交通省「標準的な運賃」の算出に係る考え方について
  2. 国土交通省「トラック適正化二法」概要
  3. 国土交通省「トラック適正化二法について」
  4. 国土交通省「第3回 適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催します
  5. 厚生労働省ポータルサイト「物流情報局(事業者の皆さまへ)」
  6. 国土交通省「原価計算の活用に向けて」
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