全国に約9,000kmもの高速道路網が張り巡らされています。その高速道路で今、大きな問題となっているのがトラックの過積載(重量オーバー)です。高速道路各社も取り締まりを強化していますが、違反する事業者は後を絶ちません。なぜ過積載トラックはこれほど危険視され、取り締まりが強化されているのでしょうか。

本記事では、過積載が高速道路にもたらすインフラへの深刻なダメージや事故のリスク、そして違反が後を絶たない背景について解説します。
過積載トラックが高速道路にもたらす影響とは?
道路インフラへの深刻なダメージ: 高速道路はその構造を保全するため、道路法により車両総重量は原則20トン以下と定められています(一部道路では25トン以下などの例外規定あり)。これは過度な重量が道路や橋梁を傷め、インフラを損傷させてしまうためです。実際、重量オーバーの車両が通行すると見えないひび割れが発生したり、少しずつダメージが蓄積して道路老朽化の原因になると指摘されています。例えば総重量21トンのトラックは、20トンのトラックと比べて約1.8倍ものダメージを道路に与えるとの試算もあります。さらに 重量(軸重)が2倍になると橋の床版にかかる負担は約4000倍になるとの試算すらあり、過積載車両がインフラに与える影響は桁違いに大きいのです。実際に、高速道路では路面のアスファルトが割れたり、橋桁がV字状にたわんで沈下してしまった例も報告されていま。こうしたことから、高速道路各社は過積載車両の取り締まりを強化しているのです。

高速道路各社による取り締まり強化: 2025年に入ってから、高速道路会社各社は共同で重量オーバー車両の摘発を強めています。例えば8月下旬には、早朝の料金所で過積載の疑いがあるトラックを目視で選び出し、料金所脇に設置した計量器で重量検査をする取り締まりが実施されました。高速道路上では移動式の計量装置を使い、怪しい車両をその場で計量して取り締まるのです。こうした取り締まりの背景には前述の通り、過積載車両が高速道路の劣化を著しく早めるという事情があります。高速道路会社の担当者も「見えない所でひびが入ったり、少しずつダメージが蓄積して老朽化を進めてしまう。ルールを守ってほしい」と述べており、現場でも過積載の悪影響が深刻に受け止められています。

違反がなくならない背景に何があるのか
取り締まりが強化されても過積載違反が後を絶たない理由として、物流業界の厳しい現状が挙げられます。高速道路各社は今月、悪質な重量オーバーを何度も繰り返す運送会社の名前を公表しました。さらにNEXCO西日本(西日本高速道路)は許可なく総重量50トン以上のトレーラーを走行させていたとして、香川県の運送会社2社を道路法違反で刑事告発し、書類送検する事態にもなっています。これほど厳しい措置がとられてもなお、違反がなくならない背景にはどのような事情があるのでしょうか。関西のニュース番組の取材に応じた違反常習の運送事業者たちの声から、その一端が見えてきました。
- ドライバー不足と納期プレッシャー: ある違反常習の会社社長は、「違反は悪質だと言われても甘んじて受け入れる。反省はしている」と前置きしつつも、許可が下りるのを待っていたら予定通りの仕事ができずお客さんにも迷惑がかかる。ドライバーも世間的に少ない中、どうしても積んで走らないといけなかった」と打ち明けました。要するに、人手不足で余裕がない中、法定の許可手続きを待っていてはビジネスが回らず、顧客離れにもつながりかねないため、違法と知りつつ荷物を積み過ぎて出発してしまったというのです。
- 荷主からの過大な要求: 別の運送会社の代表も、違反を繰り返した理由について「荷主(発注主)が『これだけ積んで持って行ってくれ』と強要した」と明かしています。ドライバーの労働時間を守るためには本来もっと時間に余裕を持った輸送計画が必要ですが、「労働時間内に運ぶには重い荷物でも高速に乗らざるを得ない背景があった」とも語られており、荷主からの無理な要請と労働環境の制約が過積載につながっている実態が伺えます。
- 「2024年問題」の影響: こうした背景には、物流業界で深刻化している「2024年問題」もあると言われます。2024年4月からドライバーの時間外労働時間の上限規制が本格的に適用され、人手不足も相まって限られた人員で大量の荷物を捌かなければならない状況が生まれています。取材に答えた運送会社も「一台のトラックにできるだけ多くの荷物を載せざるを得なくなっている」と述べており、働き方改革による労働時間の制限が違反の誘因になっている面があるといえます。
このように、過積載が後を絶たない裏にはドライバー不足や法律改正による労働環境の変化、そして荷主からの過大な要求といった複合的な要因が存在します。それでも当然ながら過積載は許される行為ではなく、道路管理者も悪質な違反には厳しく対処している状況です。実際、ある違反事業者は「捕まらなければいいと思ってやってしまった。荷物があるから行かないと仕方ない」とも漏らしており、現場の苦しい本音もうかがえます。しかし、どんな事情があれ過積載は道路インフラと社会の安全に深刻なリスクを与えるため、根本的な解決策が求められています。
専門家の意見「老朽化する高速道路へのさらなる負荷」
過積載車両によるインフラへのダメージは、今後さらに深刻化する恐れがあります。高速道路網は高度経済成長期から整備された路線も多く、築30年以上経過した老朽インフラが非常に増えているのが現状です。専門家は「将来的に老朽化が進む中で、重量オーバーの車が通ると高速道路が傷んで寿命が短くなり、更新や補修をさらに早く行わねばならなくなる」と指摘しています。老朽化が進むインフラにとって、過積載車両の走行は寿命をさらに縮める危険な行為であり、結果的に私たち自身が負担する補修コストや通行止めリスクを増大させることにつながります。過積載を見逃すことはできない、と高速道路各社が強調するのも当然でしょう。
まとめ:安全な物流のために必要なこと
過積載による高速道路インフラの劣化や事故リスクの高まりは、私たち社会全体にとって無視できない問題です。運送業者が法律を守って安全に運行できるようにするためには、荷主や消費者側にも理解と協力が求められます。便利さや納期を最優先するばかりに無理な要求をすれば、結局そのツケはインフラの損傷や事故となって返ってきます。物流業界では「2024年問題」によるひっ迫で過積載に走らざるを得ない歪みも指摘されていますが、これを是正するには発注する企業側が適正な依頼を心掛け、消費者も即日配送や過剰なサービスを求めすぎないよう意識を改めることが重要でしょう。ルールを守った上で物流を回すために何が必要か、社会全体で考えていく必要があります。過積載トラックの問題は、高速道路インフラと私たちの安全を守るための警鐘と言えるのではないでしょう。