たった1記事でわかるガソリン暫定税率とは – 初心者にもわかりやすい解説、特定財源?一般財源化?詳しく解説します!

ガソリン価格には「揮発油税」「地方揮発油譲与税」「石油石炭税」など複数の税が含まれており、消費税もかかる。現行制度では、揮発油税と地方揮発油譲与税の合計は1リットル当たり53.8円だが、このうち25.1円は本来の税率に上乗せされたガソリン暫定税率である。暫定という名称に反して1974年に導入されてから半世紀近く続いてきたこの税について、歴史と現状を車ユーザーや普段車に乗らない人向けてに整理する。

画像:福島県石油商業組合
目次

暫定税率が作られた理由・おかしなところ

暫定税率は1974年に導入された。背景としては第一次オイルショックによるエネルギー価格高騰や道路整備財源の不足を受け、政府はガソリン税率を一時的に引き上げた。これが、暫定税率の始まりで、当初は道路特定財源の確保が目的であった。道路特定財源は、主に高速道路を建築するために利用されていた。1989年に消費税が導入されると、ガソリンにかかる消費税は本体価格だけでなく、揮発油税・暫定税率にも課される。結果として税の上に税がかかる二重課税状態になり、暫定税率への批判が高まった。暫定税率は数年ごとに延長されてきたが、2010年の租税特別措置法改正で「当分の間税率」として期間が定められない形で維持されるようになった。このため「暫定」と呼ばれながら恒久化された状態が続いている。

次におかしなことについてだ。暫定税率は当初、道路特定財源の確保が目的であった目的税である。そのため集められた税金は、道路の整備や維持・管理に充当するために、道路利用者が消費するガソリンに目的税をかけて受益者が負担する仕組みになっていた。しかし、2009年に暫定税率は特定財源から一般財源化された。暫定税率は、道路を頻度高く利用する人はガソリンの消費量も多いから、ガソリン消費に際して課税するのは納得のいく仕組みであった。しかし、これを福祉や教育分野にも使えるようにと一般財源化すれば、ガソリンを沢山消費する人が福祉や教育の税負担を重く担うこととなり、その脈絡はない。

暫定税率の仕組みとトリガー条項

  • 税額の内訳 – ガソリン税(揮発油税+地方揮発油譲与税)の本則税率は1リットルあたり約28.7円、ここに暫定税率25.1円が上乗せされ、合計で53.8円となる。さらに石油石炭税と消費税が加わるため、ガソリン価格のかなりの部分が税金で占められている。
  • トリガー条項 – 2010年の税制改正では、ガソリンの全国平均価格が3か月連続で160円/Lを超えた場合、暫定税率25.1円を停止する「トリガー条項」が導入された。しかし東日本大震災後の税収確保や復興財源確保を理由に凍結され、2025年7月時点でも一度も発動していない。
※(財)エネルギー経済研究所 石油情報センター(~2010年度)経済産業省 資源エネルギー庁 統計・各種データ(2011年度~)を元に作成
  • 財政への影響 – 第一生命経済研究所の試算では、トリガー条項が1年間発動した場合、家計の税負担は約0.7兆円、企業は0.8兆円以上減税され、一世帯あたり平均1万3000円の負担減になる一方、地方財政に1.5兆円の税収減が生じる。政府は代替財源を見つけなければならないため、凍結解除は簡単ではない。

2024〜2025年の動き

近年は物価高騰により暫定税率見直しの議論が再燃した。ここでは2024〜2025年の主な動きを整理する。

主な出来事(キーワード)と時期詳細
与党内合意(2024年12月)
自民・公明・国民民主の3党は、ガソリン税の暫定税率廃止に合意した。しかし廃止時期や代替財源で折り合えず、具体的な施行日は決まらなかった。
燃料油価格激変緩和補助金(2025年5月22日〜)
経済産業省は5月22日から、ガソリン1Lあたり最大10円を段階的に引き下げる新たな価格抑制策を開始した。1週間後に5円引き下げ、数週間かけて合計10円値下げする仕組みで、暫定税率廃止まで続ける予定。
野党による廃止法案提出と衆院可決(6月11〜20日)
立憲民主党など野党7党は6月11日、暫定税率25.1円を7月1日に廃止する法案を提出。自民党は「準備期間がなく混乱を招く」と批判したが、法案は6月20日の衆院本会議で野党の賛成多数により可決された。自民党は「暫定税率の廃止は決定しているが、十分な調整が必要」と訴えた。
参議院での審議停滞(7月)
参議院では与野党の対立により法案が採決されないまま会期終了を迎え閉会。7月20日の参院選では自民・公明与党が47議席にとどまり過半数割れとなった。
選挙後の方針転換(7月下旬)
選挙で苦戦した自民党は、8月1日から始まる臨時国会で暫定税率廃止法案の成立を目指す考えを表明した。党内では2026年4月廃止案やそれまで補助金を継続する案が検討されている。立憲民主党の野田佳彦代表は「大きな前進だ。採決に向け環境整備を粘り強く進める」と述べた。
写真:https://x.com/tamakiyuichiro

時系列表

年月日/時期主な出来事(キーワード)
1974年オイルショック・道路特定財源不足によりガソリン税率を引き上げ、暫定税率導入
1989年消費税導入によりガソリン税・暫定税率にも消費税がかかり二重課税化
2010年租税特別措置法改正で暫定税率を当分の間税率として期限を定めず維持/トリガー条項制定
2011年以降東日本大震災を理由にトリガー条項が凍結され、これまで一度も発動せず
2024年12月11日自民・公明・国民民主の3党が暫定税率廃止で合意。しかし廃止時期は未定
2025年5月22日経産省が燃料油価格激変緩和補助金を開始、段階的にガソリン価格を10円引き下げ
2025年6月11日野党7党が暫定税率廃止法案を国会提出(7月1日廃止案)
2025年6月20日衆議院で野党案が可決。自民党は「準備不足で混乱」と反対
2025年7月20日参院選で自公が過半数割れ。、与党が過半数割れとなり、自民党は再び参議院で単独過半数を失った
2025年7月23〜24日自民党が8月の臨時国会で廃止法案成立を検討。廃止時期として2026年4月案や補助金継続案が浮上
2025年8月1日(予定)臨時国会召集予定。野党は再度廃止法案を提出する方針

各党の立場と課題

野党側(立憲民主党・共産党など)

  • 暫定税率の廃止法案を提出し、7月1日廃止を目指した。立憲民主党の野田佳彦代表は衆院可決後、「大きな前進だ」と評価し、臨時国会での成立に向け努力する姿勢を示した。7月下旬の記者会見では、8月の臨時国会で廃止法案を再提出する意向を示している。

与党側(自民党・公明党)

  • 自民党は暫定税率の廃止自体は認めているが、廃止時期を「2026年4月」とする案や地方の準備期間を確保する案を検討しており、野党案を「選挙前のパフォーマンス」と批判した。
  • 公明党は「暫定税率廃止に向け代替財源の確保が不可欠」として、財政健全化と道路整備の両立を主張する。

国民への影響と課題

暫定税率廃止により、ガソリン1L当たり25.1円の税負担がなくなるため、平均的な家庭では年間ガソリン代が約9,670円(約382L分)減ると試算されている。第一生命経済研究所の分析でも、一年間の発動で家計全体に0.7兆円の減税効果があり、一世帯当たり平均1万3000円の負担減になると推計している。

しかし暫定税率は道路整備や地方交付税の重要な財源となっているため、廃止には約1兆5千億円規模の税収減を補う代替財源が必要とされる。そのため政府は短期的にガソリン価格を抑える補助金と、長期的な税制改革の両面から検討を進めている。また、暫定税率が廃止され一時的にガソリン価格が値下げされても、世界的には引き続きインフレは止まらないし、イランの戦争等の地政学リスクの高まりによって、すぐに現在の価格に戻るかもしれない。

今後注目するべきポイント

  • 廃止時期 – 2025年度内に実施するのか、2026年度まで延ばすのかが焦点。
  • 財源確保 – 道路整備や地方交付税を維持するための財源をどう確保するか。
  • 補助金との併用 – 暫定税率廃止まで燃料補助金を継続するのか、補助金に代わる新制度を設けるのか。
  • トリガー条項の扱い – 凍結解除による自動減税を採用するのか、それとも新しい価格抑制策を模索するのか。

まとめ – 今後の注目点

2025年夏時点で、与野党ともに「ガソリン暫定税率の廃止」を掲げているが、廃止時期と代替財源を巡る調整が最大の課題である。政府は当面、燃料油価格激変緩和補助金で10円の値下げを行いながら、2026年4月ごろの廃止を視野に検討している。一方、立憲民主党などは2025年中の廃止を求めており、8月1日召集予定の臨時国会で議論が本格化する見込みだ。これまで上昇傾向が続いていたガソリン価格が下落すれば、物流業界にとってもコスト面での好影響が期待される。

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