物流の「2024年問題」とは
物流は日本経済の血流とも言える重要なインフラです。ところが、2024年4月から「働き方改革関連法」により、トラックドライバーの時間外労働が年間960時間までに制限されました。
これがいわゆる「2024年問題」です。国土交通省による試算では、2024年度に輸送力が約14%不足、2030年度には34%不足する見込み。人手不足・賃金上昇・納期遅延といった波が物流全体に押し寄せています。
「送料無料」という幻想
ネット通販で当たり前のように見かける「送料無料」。しかし実際には“誰かが負担している送料”です。
そのコストは、
- 販売事業者が利益を削って負担
- 下請け運送会社が低単価で請け負う
- ドライバーが過密スケジュールでカバーする
という形で、最終的には現場の働き方や安全にしわ寄せされています。
特に近年のEC拡大で、小口・短納期配送が爆発的に増加。
1件あたりの単価が低い「送料無料」モデルでは、ドライバーの労働時間短縮と配送回数増加が真っ向から衝突する構図が生まれています。
国交省が「置き配」を標準化へ
こうした背景の中、国交省は2025年11月に「置き配」を宅配便の標準サービスに位置づける方針を発表しました。
目的は、再配達の削減と配送効率の向上です。
実際、宅配便の再配達率は約11.5%(国交省調査)に上り、これは年間約4.2億件分のムダな走行につながっています。
「置き配」や「宅配ボックスの活用」によって、1件あたりの配達時間が短縮されれば、
- ドライバーの負担軽減
- CO₂排出の削減
- 輸送効率アップ
といった効果が期待できます。
ただし、懸念もあります。アメリカなどでは「置き配泥棒」が社会問題化しており、日本でも同様のトラブル防止策が求められます。

消費者ができる3つの行動変容
持続可能な物流を実現するには、消費者の行動も変える必要があります。
- 「すぐ届かなくてもいい」を選ぶ勇気
翌日配送が本当に必要かを考え、急がない荷物は「おまとめ便」を選択。 - 再配達を減らす工夫
受取日時を指定したり、置き配・宅配ロッカーを積極的に利用。 - まとめ買いで配送回数を減らす
安価な商品をバラで頼まず、1回の配送で複数購入することで効率化。
こうした小さな工夫の積み重ねが、ドライバーの働き方を守る第一歩になります。
消費者庁の対応と今後の展望
消費者庁は2023年12月に「送料無料」表示のあり方について議論を開始し、
「実際には送料は発生している」ことを明示するよう事業者に要請しました。
今後は「送料込み」「事業者負担」といった透明な表現が主流になる可能性があります。
また、政府は再配達削減や共同配送の推進を柱とした「ラストワンマイル改革」を進行中。
2025年以降、「送料無料」モデルの見直しや物流コストの可視化が社会全体のテーマになるでしょう。
事業者が今すぐ取り組むべきこと
「送料無料」時代の終焉を見据え、EC事業者や小売企業には次の対応が求められます。
- 価格設計の再構築:送料をどこまで商品価格に含めるかを明確化。
- 配送の最適化:AIルート配送や共同便の活用でムダを減らす。
- 説明責任の強化:消費者に送料の仕組みを正直に伝える姿勢が信頼を生む。

まとめ:「便利」の裏にあるコストを見直そう
「送料無料」は確かに便利です。しかし、その裏には、トラックドライバーの長時間労働や再配達のムダといった現実が隠れています。
2024年問題を契機に、政府も消費者も企業も「便利の代償」を見つめ直す時期に来ています。
今後、“送料を払う=物流を支える行動”という価値観が広がれば、日本の物流はより持続可能で、公平な仕組みへ進化していくでしょう。


